しがない感想文

映像制作に関わるサラリーマンの、本や映画の感想ブログ。

千と千尋の神隠し

生きている不思議、死んでいく不思議、人も自然も街も同じ。そこにある、そこにいる、ということはつまり、記憶なのだ。
仕事で東日本大震災後の東北の沿岸を4年間取材していた。そこにあったはずの街が津波で跡形もなくなくなり、街があった場所に土が盛られ新たな街を作る工事が進んでいる。被災地に限らず、街は姿を変えていく。瞬間瞬間を重ねて、ひとときも同じでいる、ということはない。そこにあった山、川、自然もそう。人も、そう。
世界はうつろって行く。存在というのは、あまりにもはかなく、危なげである。でも、人には記憶がある。千尋が、ハクによって自らの名前を覚えて入られたように。ハクが千尋によって自分の名前を思い出したように。千尋の身体の中にハクの記憶は刻まれていた。一瞬の交錯であっても、誰かに自分のことを覚えてもらうことで、我々は生きていける。
千尋は両親のすがたを、きちんと見分けることができた。記憶とは愛である。映画監督、森崎東が言っていた言葉だが、千と千尋の神隠しのメッセージとはまさに「記憶とは愛である」ということではなかったか。
千尋とハクが惹かれあったのは、あの世界の中でお互いを覚えている唯一の存在であったからだ。久々に千と千尋を見て、そんなことを思った。他にも見方は膨大にあるだろう、様々なテーマを内包して子供も大人も楽しんで見られる素晴らしい映画だなと改めて思った。宮崎駿おそろし、であります。